星新一風味のショートショート

ある日の世界会議にて、主要国の代表が驚くべき提案をした。
パンデミックの度に起こる経済への打撃をこれ以上放置できません。私たちは無菌化に進むべきです!」

この星では、昔から疫病が定期的に発生し、その度に人類を脅かしており、‌疫病が流行るたびに各国はロックダウンを実施し、その度に経済は深刻な打撃を受けていた。
パンデミックの度にロックダウンなどしていられるか!」と言って生活を通常に戻す国もあったが、事態が落ち着いた時には国民は半分になり、ロックダウン解除を強く推し進めた首相もその病気の犠牲となった。
パンデミックの度に医療は向上し、疫病発生から2年でワクチンが作られるまでになったが、パンデミックが発生する度に消毒剤が大量に使われ、耐性菌が大量に増えたせいで、近頃ではワクチンや特効薬が開発されるまでの時間が延びつつあった。
新薬を開発すれば開発するほど、ウイルスや細菌は凶暴化していく。世界は頭を抱えていた。

そんななかで、この国は人間を無菌動物化することを提案したのだ。
無菌動物とは、体内・体表に細菌やウイルスがいない動物のことである。
薬などの効果をはかる際に、その動物内のウイルスや細菌の影響を受けると正しい結果が得られないことから、帝王切開で出産させるなど無菌の仔を作出し、アイソレーターで飼育した動物を使うのだ。
そしてその無菌動物は、通常の種よりも30パーセント多く食物を摂取しなければならないが、寿命が長いことが知られていた。

すぐに人間無菌化計画の検討が始まった。
細菌微生物を研究している学者たちが真っ先に大反対した。自然学者たちも大反対した。医者や学者たちが大反対する中、強力に無菌化に賛同したのが投資家や経営者や政治家たちだった。
人類無菌化の話をマスコミが一斉に報道すると、無菌化関連と食料関連の株が急上昇し、有史以来の好景気に世界中が湧いた。
結果、人類無菌化計画の研究が莫大な投資の元に行われることになったのだ。

先ずは体表に菌がつかないスプレーが開発された。
次に腸内細菌を発生させない研究がなされた。帝王切開での出産が一般的となり、無菌シェルターが爆発的に売れた。
母乳からの腸内細菌の母子感染が問題となり、母乳での育児が全面的に禁止された。
虫歯が根絶されたことが、世界に宣言された。老化を止める研究も進み、平均年齢は150歳を超えるようになった。

一部の人たちは無菌化に反対し、自然と共に生きる道を選んだが、無菌化に多くの投資が行われた結果、環境保護への投資が滞り、自然破壊が急速に進んでしまい、生活の場を奪われていってしまった。結果、ほとんどの人類は無菌の中で生活することになった。
帝王切開での出産は身体の負担から3回までしかできず、また寿命がどんどん伸びた結果、出産する人間がいなくなってしまった。
人類の平均年齢は200歳を超えた。

無菌化が一般的となると、外出すると菌にさらされることから人類は自然に触れることを避けるようになった。
食料から細菌が検出される事例が増え、また内臓機能の負担を考慮し、液体食料が主な栄養源となったため、口の機能が急速に奪われてしまった。
人類の平均年齢は300歳を超えた。

この星の自然はすっかり荒れ果ててしまい、自然に魅力を感じなくなった人類の次なる娯楽は宇宙旅行となった。
このころの人々の肌は抗菌剤で銀色に輝き、おおきなサングラスを常に身につけ、口は小さく、小柄な体格となっていた。
人類の平均年齢は400歳を超えた。

人類の平均年齢が500歳を超えたあたりから異変が起きた。
こっそり安楽死する人間が増えたのだ。安楽死は法律で禁止されていたが、安楽死を選ぶ人間は後を絶たず、いつしか人類は滅亡してしまった。

***

「で、また生まれ変わりたいと、そういうこと?」
神様は言った。
銀色に輝く人々は、神様の前に大量に押しかけ、口々に懇願している。
「やり直したいって、気持ちはわかるよ。もう同じ失敗はしないって?うーん、どうしようかなぁ。」
「君たちの星はすっかり滅びてしまったしなぁ。うーん…」
「あ、いい場所があったよ。ここに星を一つ作ろう。ここで暮らしてみるかい?また一からスタートだから、ちょっと大変だよ。え?星の名前?マザーアース、地球でいいんじゃないかな。」
「マザーって何かって?あ、そうか。君たちは母親を知らないんだったね。それも今度はきちんと経験できるよ。」
「前回は神々ももっとサポートすべきだったとちょっと反省しているんだ。今度こそ、君たちがもっと素晴らしい経験ができるように、踏み外しそうになったら必要に応じてサインを出すから、きっと受け取ってね!いつも見守っているよ。」

「じゃ、いってらっしゃーい!」